実質値上げはCVRだけでなくCTRも下げる。総利益は簡単に減る。
クーポン率を下げて実質値上げを行うと、「成約率(CVR)が落ちる」だけだと思われがちですが、実際は一覧面でのクリック魅力度が低下し、クリック率(CTR)も下がるため、アクセス数自体が減少します。結果として、1件あたり利益は増えても、総売上・総限界利益高は下がり得る──このメカニズムを前提に、値上げ幅を設計・検証する必要があります。
一覧面の力学:クーポン表示が“実質価格”の比較軸になる
楽天の検索結果一覧では、クーポンやポイントのバッジが強い購買シグナルになります。クーポン率を下げる=実質価格が上がると、相対的に競合の方が「お得に見え」CTRが下がる。CTR低下→アクセス減→CVR低下が露呈という流れで、上位表示維持にも悪影響が及びます。
数式で把握:利益は「価格」よりも「流量×転換」の影響を強く受ける
売上=インプレッション×CTR×CVR×平均販売価格
総限界利益高=(平均販売価格−原価−手数料−可変物流−ポイント−クーポン)×受注数 − 広告費
※受注数=インプレッション×CTR×CVR
価格(≒クーポン率)をいじると、(1)1件あたり限界利益は上がる一方で、(2)CTRとCVRが下がり受注数が減る。総利益はこのせめぎ合いで決まります。
簡易シミュレーション:値上げで“利益額が減る”典型
前提(例):インプレッション10万、価格3,000円、原価1,500円、手数料14%、送料300円、ポイント5%
・クーポン10%(改定前)
CTR1.5%→クリック1,500、CVR3.0%→受注45
1件あたり限界利益=3,000 −(1,500+420+300+150+300)=330円
総限界利益高=45×330=14,850円
・クーポン5%(実質値上げ)
CTR20%低下で1.2%→クリック1,200、CVR20%低下で2.4%→受注28.8(約29)
1件あたり限界利益=3,000 −(1,500+420+300+150+150)=480円
総限界利益高≒28.8×480=13,824円(約7%減)
1件あたりは+150円でも、総利益は減少。この“総量の減少”が見落とされがちな落とし穴です。
よくある失敗:一足飛びの値上げと“閾値割れ”
・クーポン率を一気に落とし、競合の見た目価格指数を下回る
・5%/10%/15%といった心理的・表示的な閾値を跨いでしまいCTRが急減
・送料無料閾値や価格帯の区切り(例:2,980円→3,080円)を跨ぎCVR低下が想定以上に拡大
実務ガイド:値上げは“狭い幅で測り、戻せる設計”で
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弾力性を計測する小刻みテスト
±5%の実質価格変動(クーポン率で調整)でCTR弾力性=ΔCTR%/Δ実質価格%、**CVR弾力性=ΔCVR%/Δ実質価格%**を算出。2週間単位の時系列A/Bで、RPPの入札は固定して影響源を隔離。 -
表示閾値の死守
クーポン5/10/15%など“一覧での相対魅力度”が変わる境目は慎重に。5%→4%のような微差でも“バッジ感”の希薄化でCTRが想定外に落ちることがあります。 -
競合価格インデックスの管理
自社実質価格÷競合中央値の指数をカテゴリ別に管理し、ターゲット帯(例:0.98〜1.03)に収める。指数で勝てない場合は、まずサムネ/LPの価値訴求で耐性を作る。 -
イベント連動の段階的改定
0と5のつく日・買い回り・SSの**“需要の山”でのみ値上げテスト**。平常日にやると弾力性が過大に見えがち。山で検証し、谷では元に戻せる運用に。 -
アクセス維持のための最小限RPP
実質値上げでCTRが下がる局面は、指名系/注力キーワードのRPPをミニマムで併用し、検索評価の断絶を防ぐ。入札は損益分岐ROAS(=1/限界利益率)を下回らない範囲で。 -
価格耐性を高める“価値の上乗せ”
同梱・バンドル、ラッピング、レビューの深さ(写真/300文字)、サムネの使用シーン訴求で**“同じ価格でも得に見える”状態**を作る。値上げの前に価値です。
KPIとガードレール:利益“額”で判断し、戻しラインを明確に
・主指標:週次の総限界利益高(率でなく“額”)
・副指標:CTR/CVR/検索順位(注力KW)/広告ROAS
・ガードレール例:
— CTRが週次で−12%超 or CVRが−10%超 → 直近の改定をロールバック
— 総限界利益高が2週連続で基準比−5% → 価格/クーポンを1段戻す
— 損益分岐ROAS割れのRPPは“投資フェーズ宣言”のあるSKUのみ許容
まとめ:値上げは“利益を増やすため”ではなく“減らさないため”の技術
実質値上げは、CTR低下→アクセス減+CVR低下という二重の減速を招きます。1件利益だけ見て判断すると総利益を削りがち。
だからこそ、小幅に測る→戻せる→価値を上げてから再挑戦の順で、総限界利益高を最大化する設計に徹してください。クーポンは下げる前に見せ方・価値の上乗せ、下げた後は弾力性の実測とガードレール。この基本を守れば、必要以上に売上・利益を落とさず、健全な価格最適化が実現できます。


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